東京地方裁判所 昭和36年(ワ)4367号 判決 1962年12月08日
理由
成立に争のない甲一号証、原告(第一、二回)および被告各本人尋問の結果に口頭弁論の全趣旨を綜合すると、次の事実を認めることができ、右各本人尋問の結果中以下の認定に牴触する部分はいずれもこれを措信することができないし、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。
すなわち、昭和三三年春頃、被告、小榑英一、今関仲その他の者は、神奈川県城山町にゴルフ場を開設すべく、その経営を目的とする株式会社の設立を計画し、同人らが発起人となつて、株式会社城山カントリークラブなる新会社の設立の準備をはじめ、同年六、七月頃、定款草案を作成し、各発起人の出資額、新会社の代表者を被告とすること等をとり決め、同年一一月以後になつて、定款の認証や各発起人による出資額相当の株式の引受がなされ、会社の設立手続を了した。それに先だち、新会社設立のうえその事務所に使用するために建物が必要になつたところから、被告らにおいてその建物を物色した末、訴外岩田テル所有の建物を賃借することとなつたが、そのために必要な敷金三〇万円、賃料五万円、仲介に当つた不動産取引業者への報酬三万円、以上合計三八万円の資金の持合わせがなかつたため、これを原告から借受けることになり、同年九月二〇日新会社の代表者になることを予定されていた被告において、右の使途を原告に明らかにしたうえ、将来設立されるべき株式会社城山カントリークラブの代表者たる被告の名義により、原告から右金三八万円を借受け、ただちに「城山カントリークラブ代表者西崎薫」名義の領収書(甲一号証)を作成し原告に交付した。
以上の事実に基いて考察するに、前記建物は、新会社設立の後に事務所として使用するために賃借したというのであるから、右賃貸借およびその費用調達のための本件消費貸借契約の締結はいわゆる開業準備行為にあたりそのために要した費用をもつて商法にいう設立費用と解することはできない。而して、かかる消費貸借締結の行為は、会社設立の発起人の権限に属しないところであつて、右行為の効果は、設立後の新会社に及ぶものではなく、専ら発起人たる被告個人においてその履行の責に任ずるものと解するのが相当である。
次に、原告が被告に対し右貸金の返還を催告し、該催告が昭和三六年五月一二日に被告に到達したことは当事者間に争がないから、遅くとも、その後相当期間を経過した同年六月一五日には右消費貸借債務の弁済期が到来したものと認むべく、被告は同月一六日以降履行遅滞の責を免れないわけである。
原告が本訴で請求するところは、原告と被告個人との間に本件消費貸借が成立したことをいうにとどまらず、その主張のごとき論拠により結局は被告が右消費貸借契約につきその履行の責任を負担すべきものであるとして、その債務の履行を求めるにあるが叙上認定し判断したところも、その法律効果において右と同一に帰するから、原告の請求を全部正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。